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フレスコジクレー…その魅力と性能

フレスコ画とは

絵画の歴史の中で最も安定した画法と言われているのが「fresco-フレスコ」と呼ばれる画法です。フレスコ画は長期保存性に優れ、耐候性、耐光性ともに他の画法を遙かに圧倒する存在感を放っています。その理由は油絵のように有機メディウムを媒体に使用しないこと。ベースが炭酸カルシウムで安定性がよく、劣化しないこと、通気性がよいことなどです。ただし、フレスコ画を描くにはかなりの画力が要求されたのです。まず下地を作り、そこに漆喰の層を塗り上げます。漆喰は空気中の2酸化炭素と結合して炭酸カルシウムに変化するまでに約8時間かかります。その8時間の間に顔料を水で湿らせて漆喰に溶かし込むのです。そのため「油絵の具」のような上書きはできません。失敗したら漆喰の層を剥がして一からやり直すのです。そのため8時間以内に書き上げるスピード、間違いなくラインを引ける画力、デッサン力が要求され、次第に敬遠されていきました。

現存するミケランジェロのシスティナ礼拝堂のフレスコによる天井画は1508年から1512年にかけて制作されたにもかかわらず、現在も画面の色彩は鮮烈で、ピンク、グリーン、明るいイエロー、そしてスカイブルーが、真珠のような温かみのある灰色の地に映えています。実はロウソクの煤によって色彩が失われ、画面はほとんどモノクロームのように見えていたのですが、1981年から1984年まで3年間に渡り行われた修復作業(ほとんど加筆はしていま。この作業のほとんどは表面の煤の除去だけだったのです。)により、汚れの膜が除去され、500年を経た今でも見事な色彩を保っています。対して、同時代に描かれたレオナルド・ダ・ヴィンチによるテンペラ画「最後の晩餐」は彼の生前から繰り返し修復され、今はほとんどかつての本体は残っていないとされています。

メディウムを使用せず、顔料と水だけで描かれるのでメディウムによる劣化がありません。水に溶かれた顔料は消石灰Ca(OH)2の粒の内部に染み込みます。やがて消石灰は二酸化炭素CO2と結合し、H2Oを吐き出し、炭酸カルシウムCaCo2になり、その透明な膜の中に顔料を閉じ込めます。つまりこの画法は顔料のサイズと多孔質の消石灰の穴のサイズがベストバランスで決まった時に物理的に顔料を立体的に固着させるのです。そのため年月を経ても空気の行き来があり、たとえ一時的に湿気を含んでも外気が乾燥すれば内部の水分を吐き出してくれるので劣化しにくいのです。

フレスコジクレーの特徴

フレスコジクレーは、この画法に必要な画力はデジタルの恩恵で、スピードはインクジェットプリンタの能力を使い、最も難しい「失敗せずに描く」ことを可能にしました。インクが打ち出される受容層は単純な消石灰が炭酸カルシウムに化学変化するという昔ながらのフレスコ画の技法を踏襲します。(当然インクジェットプリンタが持つインキのサイズに合わせた消石灰の受容層が必要なわけです。)おかげでもとの画像がデジタルフォトであれ、CGであれ、それをかつてのフレスコ画同等の魅力的なプリントにして仕上げてくれるのです。太陽光が直接入る室内におかれてもほとんど退色しません。まさに「いにしえの技法と現代のデジタルの技術力の連係プレー」だと言えるでしょう。

その生成法のおかげでいくつかの利点があります。炭酸カルシウムなので衛生的。特にフレスコの内部はカビに強い内部アルカリ性を帯びているためカビの問題をクリアできます。また、炭酸カルシウムの層にインクが平面ではなく三次元的に定着するため、銀塩写真にも似た立体感を持ちます。特に強い赤外線を含んだ光源を当てると驚くような立体感を醸し出します。しかも中性紙(無酸性紙)がベース。これは現在のほとんどのインクジェットプリンタ用紙にはかなえられない利点です。なぜならインクジェットプリンタ用紙は、そのベース紙がいくら中性紙であってもその上の受容層に多くはアルミナが使用され、その発色のよさには定評があるものの常に酸性を持っているからです。

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一般的なインクジェット用紙にプリントすると、まずイエローが抜けてその後シアンとマゼンタが抜けていきます。

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フレスコジクレーでは、やや色彩が薄れるものの全体のバランスが同じなので色相劣化が非常に少ないのが最大の特徴です。

加速度試験において、通常のインクジェットプリンタ(顔料系を使用)では最初にイエローが、そしてシアンが抜けていくため色相のバランスが維持できないことに対して、フレスコジクレーの場合はやや彩度が下がるものの、均等に劣化するため全体の雰囲気はほとんど変化しないのです。フレスコジクレーの最大の魅力は何と言ってもこの長期保存性だと言えます。この原因を探るために印刷前後の表面の元素分析を行った結果、印刷した後、漆喰の炭酸化反応によって顔料インクがCaCO3の薄膜で覆われ、有機物である顔料インクの酸化劣化を抑える構造に変化することが分かりました。この反応は、数ヶ月から1年かけてゆっくりと進行し、作品として熟成されて行きます。そのため、1年間は二酸化炭素を含んだ空気の流通が必要です。フレスコジクレーは、普遍的な技法であるフレスコのメカニズムを使って、改めて代々受け継がれる「形ある写真作品づくり」を基本コンセプトとした現代のフレスコ画法といえるでしょう。

フレスコジクレーが持つ立体感は、表面の50〜300μmの不連続サイズの突起物が影響しています。従来のインクジェットのメディアは、30μm程度のピクセル各色が折り重なって発色しますが、フレスコジクレーでは、この表面突起物にインクジェットのインクが着弾し、あたかも不連続サイズの突起物そのものが色を持っているかのように見えます。その結果、顔料インクのピクセルで色表現されたデジタル感の残る従来のインクジェットメディアの画質と異なり、フレスコジクレーではディテールに拘った油絵の細密画に見られるような自然な奥行き感が表現されます。

デジタルを感じる要素のひとつに、微妙に色調が変化してゆく空などのグラデーション表現で、階調の連続性がなくなって部分的に縞模様が見えてしまう現象があります。フレスコジクレーの場合、不連続サイズの突起物へインクが着弾することから、漆喰のテクスチャーによる「ゆらぎ」の要素が加わり、デジタル感を抑えた自然な画像になるものと考えられます。

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TYPE Rの表面。この繊維感がでこぼこ感が質感を強く醸し出す。

漆喰は、日本古来より貴重な丁度品を保管する蔵の内装仕上げに使われるなど、優れた防カビ性を有することが知られています。印刷した状態で防カビ性が発揮できるか、メーカーではJIS Z 2911(かび抵抗性試験方法)に準拠して試験を実施しています。

フレスコジクレーは、主成分が未硬化の漆喰(=Ca(OH)2)のため、気密パックから取り出した直後はアルカリ性で、フェノールフタレイン指示薬を滴下すると赤く変色します。それに対して、気密パックから取り出して3年経過したフレスコジクレーでは、同指示薬を滴下しても赤く変色はせず、漆喰が硬化(=CaCO3)して中性化していました。しかし、中性化した表層にカッターナイフで軽く傷を付けると内部は赤く変色したことから、中性化は極表層のみで、漆喰の内部はアルカリ性が維持されてることが分かりました。どうやらこのことが、表面が中性化しても防カビ性が維持できる要因と考えられます。(カビなど菌類の多くはアルカリ環境下では繁殖できません。)
建築に使用される漆喰では、30年以上経過してもアルカリが維持されて防カビ性が発揮されることが日本建築仕上学会で報告されており、フレスコジクレーによる作品も同様に長期に渡ってカビ菌に対して保全性が発揮できると考えられます。

フレスコジクレーの弱点

もっともよいことばかりではありません。フレスコジクレーの特徴である繊維状のでこぼこは、時として「不要な文様」のように見えることもあります。この理由のほとんどは「浅い角度で打ち込まれた照明」のせいです。また、インクが受容層に入り込む仕様のため最大濃度が低い顔料プリントよりもやや「黒が締まらない」現象も確認されています。ダイナミックレンジが狭いのですね。再現される白については、蛍光塗料などを含まないためとても気持ちのよい「純粋な白」であることは魅力だと思っています。
素晴らしいフレスコジクレーですが、そのプリント前のロール紙の[保存]には気を遣わなければなりません。冷暗所に保管しても、空気と触れるとどんどん炭酸化現象を起こします。プリントしてから3日間は経過しないと安定しません。プリントした直後は多くの水分を含むので破れやすく、仕上がった後も顔料インクの宿命で擦過耐性が低い(擦ると傷が付きやすい)など、結構やんちゃなプリント用紙です。

弊社の取り組み

弊社では弱点を理解した上でなお魅力的なこのプリント用紙に最適なプロファイルと、フレスコジクレーに合わせてマッチングさせたディスプレイなどを用意し、注意深く保存されたロール紙を使用しています。フレスコジクレーの開発にも関わり、世界中で最も多くのフレスコジクレーによるプリントを手がけている経験を生かして取り組んでいます。これまでのどの印刷物に比較してもはるかに長期保存に耐えられる耐性、豊かなグラデーション、落ち着きながらも美しい発色、他のプリントでは絶対に得られない立体感、そしてその清潔さ、美しく純粋な白がその魅力です。高い長期保存性が絶対条件となるパブリックアート・病院や学校などの壁面装飾・収蔵された本画の高品質な複製展示品などに適正を持っています。またこの高品質・高級感は「ジクレー作品」としてのプリントにも最適です。

さらに詳しい情報はこちらから *フレスコジクレーは株式会社FLトクヤマの製品です